2026/08/28 14:18

金沢の古道具市場で、蕎麦猪口を好んで蒐集していた方のものと思われる一群に出合いました。
その中から今回選んだのが、江戸後期頃につくられたと思われる3客の古伊万里の染付蕎麦猪口です。
蕎麦猪口という器は面白い。
手のひらに収まるほどの小さな器なのに、そこには山水があり、人がいて、鳥が飛び、文字が書かれています。
1客目に描かれているのは「竹林七賢」。
中国・魏晋の時代、俗世の権力やしがらみから距離を置き、竹林に集まって酒や音楽、清談を愉しんだと伝えられる7人の文人です。
小さな器に描かれた人物を眺めながら、そんな遠い時代の物語まで想像できるのが古い器の面白さなのかもしれません。
月明かりの下、水辺の庵と人物が描かれ、その反対側には「月」「夜」「孤」などの文字を交えた詩文。
すべてを細かく描き込むのではなく、絵と文字、そして何も描かれていない余白によって月夜を感じさせます。
3客目は花鳥文。
白い余白の中に花があり、その周囲を鳥たちが自由に飛んでいます。
鳥の向きも姿も揃っていません。
けれど、その整えすぎていないところがいい。
余白がそのまま空になり、小さな器の外側へ景色が続いていくようにも見えてきます。
そして3客を見比べていると、表側だけではなく、器の内側にも目が向きます。
竹林七賢と花鳥文の見込みには、昆虫を大胆に省略したような不思議な文様。月夜の蕎麦猪口には、わずかな筆数で描かれた岩波文があります。
写実的に描こうとしているわけではありません。
何を描いているのかわからないくらい単純化された線が、今見ると記号や抽象画のようにも感じられます。
古いものを見ているはずなのに、ときどき妙に現代的に見える。
そんな瞬間が、古道具を扱っていて面白いところです。
蕎麦猪口は、酒器にもなり、湯呑みにもなり、小鉢にもなる。
けれど、ただ「使える古道具」というだけではなく、手のひらほどの大きさの中に、つくられた時代の人たちが見ていた景色や物語まで残っています。
竹林の文人。
静かな月夜。
空を飛ぶ鳥。
3客を見比べてみると、それぞれに違う小さな世界がありました。
今回紹介した3客の蕎麦猪口は、megurumeguruのオンラインショップ(BASE/STORES)に掲載しています。
手のひらに収まる器だからこそ、描かれたものをじっくり眺めてみる。
蕎麦猪口には、そんな古道具の愉しみ方もあるように思います。
